(1)実物市場と資本市場における企業価値の誰離の裁定(アーピトラージ)を主な動機とするM&A(2)2つの独立の企業が合体したときに生まれるシナジー効果を主な動機とするM&A(3)その他の動機にもとづくM&AM&Aを考えるに際しては、そのメリットが具体的に上記(1)(3)のどれにもとづいているかを、明確に意識することが重要である。
というのは、それによって評価方法をはじめ、考慮する要因が異なってくるためである。 3、1企業価値の裁定にもとづくM&A。
企業が新規投資を考えるときに、発達した市場型経済のもとでは常に実物市場で必要な経営資源を新規に調達する方法と、それらの経営資源の集合体である既存企業を資本市場で買収する方法の問での選択が可能である。 今、比較的明確に定義された事業分野における一定規模の新規投資を検討するとしよう。
通常の資本予算プロセスに従って、一方ではその事業がもたらすと期待される収入(キャッシュ・インフロー)見通しがあり、他方ではそれに必要な生産設備、販売綱、人件費、金利負担、在庫投資、運転資金などのキャッシュ・アウトフロー見通しが立てられる。 それらにもとづいて得られるネットの期待キャッシュフローの流列を、加重平均資本コストで割り引いたNPVがプラスになるとき、この投資は価値を生むと判断される。
しかし、その事業分野で事業をおこなっている適当な既存企業が存在すれば、そういう企業を買収するのも、もう1つの選択肢となる。 既存企業の買収は、自力で新規投資する場合に比べて、次のようなメリットがある。
(1)新規進出の場合には、軌道に乗るまでに一定の時聞が必要であるが、買収の場合は即効性がある。 (2)新規投資の場合には、生産、販売、技術、人材、ブランド・ネームなどの経営資源がしかるべく組み合わされ、統合されて、収益を生む事業にもっていけるかどうかに関して常にリスクをともなうが、買収の場合には実証ずみである。
(3)新規投資の場合には、それだけ業界全体として供給能力が増え、競争激化の要因になるのに対し、買収の場合はその心配はない。 これを反映して、正常な状態では経営が順調な既存企業の資本市場における価格(負債プラス株式の時価総額)は、同様な規模で新規に参入するために必要な経営資源を実物市場で時価で調達するのに必要な支出額の合計(再取得価値)を相当上回っている。

しかし、時として、何らかの理由で資本市場における既存企業の評価が著しく低く、実物市場での再取得価値に比べて相対的に割安な状況が生まれることがある。 これは何らかの理由で株価が不当に低迷していたり(投資家の関心の低い業種、経営能力に疑問のある企業、等々)、実物資産価格の急上昇に株価が追いついていないなど、いろいろなケースが考えられる。
こうした場合に、実物市場と資本市場の聞の価格付けの一時的な非効率性にもとづいた、裁定(アーピトラージ)の機会が生まれる。 すなわち、新規に投資をおこなうよりも、既存企業を買収して事業をおこなうほうが高い投資収益率を期待できる。
こうした投資機会の有無の目途を与えてくれる尺度の代表的なものが、第2章で紹介した「トービンのq」である。 現実には、新規に事業をおこなうのに、完全に代替できるような既存企業を見出すのは容易ではない。
したがって、主として当該事業を営んでいる企業を選んで、不足している部分を新規投資で補い、また不必要な部分は売却してキャッシュフローを回収する形で、投資採算を考えることになる。 こうした調整をほどこした後のNPVの比較にもとづいて、既存企業を買収したほうが総合的に有利な場合には、株主資本に対する価値創出の観点からM&Aが正当化されることになる。
その場合の意思決定ルールを一般的な形で示せば、次の通りである。 @第1ステップ新規投資の場合に必要なキャッシュ・アウトフローの現在価値を、通常の資本予算決定プロセスにもとづいて予測する。
A第2ステップ買収候補企業を資本市場で取得するのに必要なネットのキャッシュ・アウトフローの現在価値を、次のように推定する。 (買収価格)・(必要な追加投資額のNPV)一(不要部門売却によるキャッシュ・インフローのNPV)@主主Aのときに買収による事業展開のほうが有利になる。
B最後にAで求めたキャッシュ・アウトフローと、その事業がもたらす将来のキャッシュ・インフローの期待値にもとづいて、通常の投資評価プロセスによって投資採算を評価する。 NPVがプラスなら企業買収が正当化される。
このような実物市場と資本市場の聞の裁定機会は、潜在的にはあらゆるタイプの事業に関して存在するといえよう。 実際、アメリカの1980年代に起こったBOによる大型M&Aの多くは、株式市場における評価が実物価値(再取得価値)を大幅に下回る企業を買収し、解体・切り売りして裁定利益を得ることが主目的であった。

こうした動機にもとづくM&Aは、事業展開の手段として比較的再取得価値の算定が容易な事業を中心にみられる。 その代表例として次のようなケースがあげられる。
(1)わが国の自動車メーカーやタイヤメーカーがアメリカに進出する場合、さら地に新規工場を設立するか、既存のアメリカ企業の工場の1つを買い取って追加投資をおこなうかの選択。 (2)石油会社や紙・パルプ会社が将来のために新たに掘削や植林をおこなうか、それとも一定の埋蔵原油や山林を保有している同業他社を市場で買収するかの選択。
(3)不動産会社が自ら新たに土地を取得するか、未開発の土地を保有して行き詰まった不動産会社を買収するかの選択。 3、2シナジー効果を主目的とするM&A。
独立の事業体としての企業が資本市場で正当に評価されている場合でも2つの企業が合体するといろいろな形でシナジー効果が期待できることが多い。 プラス1が2以上の価値を生むケースである。
このような場合は経済的にM&Aを検討するに値する。 このシナジー効果を狙ったM&Aを考える際には、被買収企業の単体価値に比べてM&Aによって合体価値がどれだけ大きくなるかの推定が鍵になる。
シナジー効果の発生する原因はいろいろ考えられるが、主なものとして次のようなものが指摘できる。 @増収効果Aコスト削減効果B設備投資、研究開発投資、在庫投資などの投資効率の向上による支出削減C節税効果Dその他の経営資源の有効活用、補完このようなシナジーによる合併効果を、両社がそれぞれ独立して事業を営んでいる場合に比べた増分キャッシュフロー(ムCF)でとらえれば、次のように示される。
シナジー効果(OCF)(増収効果)・(コスト削減効果)・(投資支出削減効果)・(節税効果)(その他経営効率改善効果)(1)シナジー効果の推定財務担当者としてM&Aを検討するとき、第1に見定めなければならないことは、M&Aによる経済的効果(ベネフィット)の測定である。 A杜がB社を買収することによって、A杜とB杜がそれぞれ独立しているときの単体としての企業価値(VA、VB)よりも、AとBが合体した結果生じる結合体の企業価値(VA・B)のほうが大きいとき、そのM&Aは検討に値する経済的妥当性があると考えられる。

ここで右辺がプラスになるとき、M&Aはシナジーがあるといえよう。


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